緑に溶け込む文化施設「アジア・ソサエティ」

今回紹介するのは、芸術・文化砂漠(商業一辺倒で質のいい公共文化施設がない)と言われている香港の中で、とても貴重な文化施設。アジア・ソサエティー(Asia Society)と言う財団が運営する美術館です。

アイランド・シャングリラの斜め向かい、英国大使館のすぐ横の超一等地にあるこの美術館は、2012年に英国植民地時代の爆薬庫跡地に建てられました。敷地面積は1.3ヘクタール以上あり、英国軍が立ち去った今では、幾つかの軍用施設が残るだけ。残りは緑の生い茂った自然豊かな場所。

この香港島の中心にこれだけ素晴らしい敷地を確保できたのには、驚きの他ありません。調べてみると、この美術館を運営するアジア・ソサエティーと言う財団は、もともと1950年代にアメリカの富豪ロックフェラーによりアメリカ国内でのアジア文化の理解を広めるために設立された財団。本部はニューヨークにあり、彼の志に賛同した有識者たちにより香港支部が作られました。そのコミッティーメンバーには、大手銀行の設立者など、香港の名高い富豪たちが名を連ねています。どおりでこんな敷地を用意できたはず。彼らの寄付やコネクションなど使えば、きっといとも簡単なことだったのでしょう。

さて、この美術館の設計を担当したのは、アメリカの設計事務所、Tod Williams Billie Tsien Architects(長いのでTWBTAと呼ぶことにします)。TWBTAは決して派手な作品を作ってきたわけではないですが、敷地の特徴を生かした建物や素材の使い方に定評がある、とても堅実な建築家ドゥオ(夫婦)。彼らの代表作で頭にパッと浮かぶのは、ニューヨークのMOMAの目の前にある(あった?数年前取り壊しの噂がありました)、アメリカン・フォークアート美術館。大きな天然石を大胆に使ったファサードと吹き抜け空間を巧みに使った内部空間が大変美しい建物です。

TWBTAにとって香港で最初の作品となったアジア・ソサエティ。彼らの敷地へのリスペクトと巧み空間作りを体験できる建物です。この施設は、敷地内に残っていた19世紀の軍用施設を改装した部分と、それにに新しく加えられた建物から構成されています。

館内には展示室のほか、小さなシアター、カフェ/ショップ、教育施設、財団運営事務所など入っているのですが、それらの建物は段差のある広大な敷地に散らばって建っており、それぞれの建物は橋や屋外通路なで繋がっています。

この美術館の面白いところは、その敷地の性格上、建物の全容が見えないので、訪問者がちょっとずつ館内を歩きながら徐々に全体構成を理解していくところ。その途中、敷地の豊かの自然を感じられたり、香港の素晴らしい眺望が見えたりと、様々な発見が空間体験を豊かにしてくれます。

この体験することに重視を置く建物(見た目に重視を置く建築に対して)、個人的に一番好きなタイプの建築です。昔の投稿でも書いたように、スリランカで体験したジェフリー・バワ設計のヘリタンス・カンデラマホテルと同じパターン。この美術館を訪れた時に、建物の機能としては全く違いますが、双方大変似ていると感じました。

この看板が美術館への入口への目印です。

建物の正面玄関、とても控えめです。この後ろにどのような空間が隠されているのでしょうか〜。

この日は、旧正月のイベントを開催していて、いつもよりも人が多かったです。普段はガラガラ。

エントランスの建物を抜けると、すぐに屋外スペース。滝のような噴水がお出向かい。

一歩敷地内に足を踏み入れると、香港の市街地に入るのを忘れてしまうほどの静けさと緑の豊かさ。

2階建ての橋を歩きながら、敷地内を探検します。

敷地の奥には、昔の軍用倉庫だった頃の名残が。地面に見えるレールのようなものは、爆薬などの荷物をトロッコに乗せて運んだため。大砲も飾ってありました。

19世紀の建物を利用して作られた展示スペース。2-3か月のペースで企画展が行われます。

新しいツルツルとした壁と昔の壁とのコントラストが面白い。とても細い空間。

森の中の小道を散歩している感じ。

階段を使って屋上スペースに出てみましょう。

光と風がとても気持ちいい〜。緑が近くに感じられます。

空中散歩をしているかのよう〜。

こちらが新しい建物。水平を強調した、あえて主張のおとなしいデザイン。

建物には景色と緑が楽しめるさまざまな仕掛けが。デッキスペースが突き出ています。

このように、静かに思いに耽ることのできるスペースは香港には少ない〜。

奥に見えるのがおしゃれで人気のカフェ。ブランチ時は要予約。アフタヌーンティーもできるそうです。

大量の写真を載せましたが、写真だけじゃすばらしをお伝えきれないのが、体験型建築の特徴。皆さんも是非、実際に訪れて体験していただきたい。香港内で数少ないオススメ近代建築の一つです。