Pedder Building のゆく末

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Pedder Building のゆく末

香港アートウィークの一環で訪れたセントラルにあるPedder Building。

1920年代に建てられたこの建物は、周辺で唯一残る戦前の商業ビルで、香港政府より歴史的建造物に指定されている。アート好きにとっては、多くのヨーロッパ/米国系の一流アートギャラリーが店を構えている建物として知られている。古い建物特有の高い天井が、アートギャラリーとしての空間に適しているのであろう。

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モダンな高層ビルが建ち並ぶこの街で、9階建のPedder Buildingは大きさ以上の存在感を醸し出している。しかし、Pedder Street に面した地上階の貸店舗が未だに空室になっているのを見るたびに、とても寂しい気持ちになる。

香港に10年以上住んでいる僕のような者にとって、Pedder Building は上海灘(Shanghai Tang)の旗艦店が入っていた建物と、頭にインプットされているのではないだろうか。建物の持つコロニアルな雰囲気が、1930年代の上海からインスピレーションを受けたブランドのスタイルのにとてもマッチしていた。建物に入った途端、古き良き植民地時代にタイムスリップするような感覚を与えてくれる、特別な場所だった。ハイセンスで香港らしいアイテムが手に入る店として、日本から来た友人などを必ず連れて行く、ある意味、自慢の場所だった。

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そんな上海灘に関するショッキングなニュースが飛び交ったのが、今から7年前の2011年。家賃の高騰により、Pedder Buildingから立ち退くことを決めたのだった。噂によると、家賃が今までの2倍に急騰したとのこと。香港では、家賃の値上げでテナントが店じまいをせざるえなくなったといったニュースは、さほど珍しいことではない。しかし、このPedder Buildingの場合、建物と上海灘が長年一緒に培ってきた、ここだけの場所性があった。そんな特別な関係性がいとも簡単に切れるのを見て、とてもやるせない気持ちになったのを覚えている。

そして、上海灘の後、店舗を引き継いだのがアメリカのアパレルブランド、アバクロ(Abercrombie & Fitch)。若者に人気の世界的ブランドだ。正直、がっかりした。あまりにも建物とブランドがミスマッチだからだ。ちなみに、アバクロは一ヶ月に日本円で約1億円の家賃を払っていたとのこと。ここで、過去形を使ったのも、そんなアバクロも去年、店じまいをしてしまったのだ。契約上では2019年までの借用期限となっていたので、建物オーナーに約16億円の罰金を払わなくてはいけなかったそうだ。そんな大金を払ってまで早期に立ち退きをしなければならないなんて、どんな経営戦略をたてていたのであろう。

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そして、現在、店舗はまだ空室のままだ。
建物のオーナーは、「Pedder Buildingのような歴史的建造物として指定された建物は、再開発の制約がされていて、不動産として運営していくのが難しい。建築保存のために政府からの経済的援助が必要だ」とようなことを新聞に寄稿していた。

文化的価値のある建物をお金儲けの道具としか見ていないような者に援助する必要なんてないと思っているのは、僕だけではないであろう。必要なのは、人々の記憶に刻まれるような場所づくりをしていく努力だ。建物の表層的な価値だけでなく、場所としてのアイデンティティーも継承していくべきだと思った。